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わたいしの時もある

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

袖さへ濡れて朝菜摘みてむ

冬十一月、太宰の官人等、香椎の廟を拝みまつり訖はりて退り帰る時に、馬を香椎の浦に駐めて、各懐を述べて作る歌 帥大伴卿の歌一首 いざ子ども香椎の潟に白たへの 袖さえ濡れて朝菜摘みてむ (万葉集/巻六/957/大伴旅人) さあみんな、香椎の干潟に真っ白の袖…

初めてマトリックスを観た

もののふの磐瀬の社(いはせのもり)のほととぎす 今も鳴かぬか山の常陰(とかげ)に (万葉集/巻八/1470/刀理宣令) たまたま機会があって、さっきまでマトリックスを観ていた。グラサンスーツ、大きくのけぞって銃弾をよける、以外のイメージが全くない状態で、…

「らむ」ってどういう意味?

我が背子が見らむ佐保道(さほぢ)の青柳を 手折りてだにも見むよしもがも (万葉集/巻八/1432/春の雑歌/大伴坂上郎女) 高校生の頃の体育祭は、川を越えた先の運動場で開催されていた。運動が得意な方ではなかったからか、三年間の勝っただの負けただのは全く覚…

能宣と浪は言伝を頼まれる仲

筑紫へ下りける道にて須磨の浦にてよみ侍りける 大中臣能宣朝臣 須磨の浦をけふすぎゆくときし方へ 帰る浪にやことをつてまし (後拾遺/羈旅/520) 筑紫へ下っている道中で須磨の浦で詠まれた歌で、須磨の浦を今日通り過ぎるところだと、今私が歩いてきた方へ…

立つ鳥

しらくもにはねうちかはしとぶ雁の かげさへみゆる秋の夜の月 (和漢朗詠集/秋/259) 今荷造りをしている。宅急便の複数口を利用するため、なんとか5の倍数の数に段ボールを抑えたくて、必死に靴下やインナーを本と本の間に緩衝材になってくれることを願って詰…

馬内侍集注釈がほしい!

人の氷を包みて、身にしみてなど言ひて侍りければ 逢ふことのとどこほるまはいか許(ばかり) 身にさへしみてなげくとか知る (後拾遺和歌集/恋一/馬内侍) この間*1、恋人に見せようと思って手で雪をすくったけど、端からとけてしまった万葉の歌を扱って、二人…

物思いに沈む

大船の香取の海に碇おろし 如何なる人か物思はざらむ (万葉集/巻十一/2436/物に寄せて思を陳(の)ぶ) アニメや漫画などで、水中に沈みながら考え事をするシーンに遭遇することがある。お風呂に沈みながらだったり、海だったり。 私は幼い頃中耳炎でプールに入…

冬と春の境目

万葉集の冬から春に変わる頃の歌を2首紹介したい。 梅の花降り覆ふ雪を包み持ち 君に見せむと取れば消につつ (万葉集/巻十/雪を詠む/1833) 梅の花を覆うように降り積もっている雪を手で掬って持って、あなたに見せようと取ったらとった先からとけてしまう、…

八重葎の歌2首

八重葎しげれる宿のさびしきに 人こそみえね秋は来にけり (百人一首/恵慶法師/47) 八重葎しげきやどには夏虫の 声より外に問ふ人もなし (後撰和歌集/夏/194) 葎(むぐら)というのは人が来ない荒廃した家屋に伸びる蔓のような植物のことである。そんな葎が幾重…

生活が変わったり油断したり

朝びらき漕ぎ出て来れば武庫の浦の 潮干の潟に鶴が声すも (万葉集/巻十五/3595) 朝、船を漕ぎ出して来てみると、武庫の浦の干潟に鶴の声がするなぁ、という歌。 元々潮が満ちていたところが一面干潟になっている、その広い視野いっぱいに鶴の声が響いている…

夜に立つ霧の歌3首

ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく 照れる月夜の見れば悲しき(万葉集/巻六/982)*1 「ぬばたまの夜霧」という表現は、枕詞の「ぬばたまの」で57577のキャンバスを真っ黒に塗りつぶして、その上から白を霞ませながら乗せていくようなイメージが浮かんで魅力的…

漠然とした期待の裏地

わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの雲ゐにまがう沖つ白波 (百人一首/藤原忠通/79) 大海原に漕ぎ出してみると、白く輝く雲と見間違えるような沖の白波が見える、というような意味になる。 この歌、皆さんはどういうイメージを持つだろうか。 清々しい海の景…

安部広庭の歌2首

万葉の歌人、安部広庭の歌は少なくとも集中に4首ある*1。その中で今回は「家路」「我が宿」と家に関する語が使われている2首を紹介したい。 子らが家路やや間遠きをぬばたまの 夜渡る月に競ひあへむかも (万葉集/巻三/302) 子供達が待つ家までの道は今少し遠…

それしか考えられない

春日野の浅茅が原に遅れゐて 時ぞともなし我が恋ふらくは (万葉/巻十二/3196) この8月、右手首が骨折していた。朝起きて激痛が走り、捻ったのではないかと1日冷やして様子を見ても全く収まる気配がなく、むしろ痛みを増していた利き手の手首は翌日整形外科で…

どうやって伝えるか

もろともにあはれと思へ桜花 花より他に知る人もなし (百人一首/66/大僧正行尊) 今日は書くことがなかなか見つからなかった。穏やかな一日なのはよかったけれど困ってしまう。そんな時この歌を見つけた。 意訳するなら、お互いに今をいつか懐かしんでくれよ…

あられが降っているとどうなる?

題知らずかきくらし霰降りしけ白玉を 敷ける庭とも人の見るべき (後撰/冬/464) 視界を埋め尽くすくらい霰よ降りしきってくれ、白くて丸い石が一面に敷いてある庭かと人が見るほどに、というような意味になるだろうか。 この歌、最初に読んだ時は自分の貧乏性…

歳をとっても

ももしきや古き軒端のしのぶにも なほあまりある昔なりけり 順徳院 (百人一首/100) 適当に作るインスタントラーメンは、ほどほどに貧しき生活を送る人間にとっての贅沢品ではないか。 最近インスタントラーメンに炒め物を乗っけて食べることが楽しくて、一週…

洗濯物は干せずとも

はなはだも降らぬ雪ゆえこちたくも 天つみ空は曇りあいつつ (万葉/巻十/2322) 今干しても雨に降られそうだから。そう思って洗濯物を干さずにいたことがある。たぶん多くの人があるだろう。だからこういう時に何があるかはご存知の通りである。気を利かせた時…

同僚と働いてもひとり

世とともにあぶくま河の遠ければ そこなる影を見ぬぞわびしき (後撰/恋一/520) コンビニで働いていた期間が5年ほどある。お世話になっていた店舗には外国人アルバイトが多く、一緒にシフトに入った日本人は店長くらいだった。中央アジアやベトナム、中国、ミ…

 朝の音

遥かに江を泝(さかのぼ)る船人の歌を聞く歌一首 朝床に聞けば遥けし射水(いずみ)川 朝漕ぎしつつ歌う船人(万葉/巻十九/4150) 母方の祖母の家に行く度に、耳がツーンとした。玄関を開けると漂ってくる、木と畳とタバコと油絵の具とコーヒーとカレーと、そうい…

「音のソノリティ」①ー2015年上半期編

音のソノリティという番組がある。6分の放送時間の中で、日本各地で採取した音を聞かせる番組である。 音の傾向はさまざまで、蛙や鳥の鳴き声や、伝統的な祭りの空気感、職人芸に付随する効果音や、農水産物の収穫作業など多岐に渡る。 なかなかニッチ番組だ…

食べられなかったマグロのタタキ丼の行方

百首歌たてまつりし時 二條院讃岐散りかかる紅葉の色はふかけれど 渡ればにごる山川の水 (新古今/秋下/540) この間病人にご飯を作る機会があったのだが、作れと言われて作ったのに食欲がないからいらないと言われた。自分でも狭量だと思うがちょっと不満を感…

花も紅葉も枝になき頃

降る雪は消えでもしばしとまらなん 花も紅葉も枝になき頃 (後撰/冬/493) ふと、私はどう生きてどう死ぬのだろうと思うことがある。結構後ろ向きな気持ちで。 そんな時、それをしなくても死なないけど最大ヒットポイントがジリジリ減っていくタイプの外出を全…

あをによし

大宰少弐小野老朝臣の歌一首 あをによし奈良の都は咲く花の 薫ふがごとくいま盛りなり (万葉/巻三/328)news.yahoo.co.jp 近鉄の観光列車の名前が「あをによし」になるとのこと。奈良を導く枕詞が列車の名前になるのは、列車が他府からくる観光客の最初に触れ…

電話越しに

題知らず あはれてふ事にぞうたて世中を 思ひはなれぬほだしなりけれ (古今/雑下/939) 往々にして、子供というのは説明書を読まないのではないか。買ってもらったゲームを矢も盾もたまらずすぐプレイしていた子供時代だった。 けれど、一度だけその説明書…

「うぐいすと同じものを見る」を見る

suihanki660.hatenablog.com 昨日の書いたものを読み返していたら、ツッコミどころがたくさんあって頭を抱えた。黒歴史ってこうやって作られていくのだと納得がいった。同時に私は和歌をなぜ読んでいるのか、という難しい問いに対する答えに少しだけ近づけて…

うぐいすと同じものを見る

題知らず 詠み人知らず うぐいすの鳴く野辺ごとに来てみれば 移ろふ花に風ぞ吹きける (古今/春下/105) うぐいすが鳴いている野辺に来てみたら、散っている花に風が吹いていた、という意味になるだろうか。 状況としてはシンプルな歌だが、解釈が少し難しい。…

短所と長所と

はつかりをよめる 在原元方 まつ人にあらぬものから初雁の 今朝なく声のめづらしきかな (古今/秋上/206) 今日はやらないといけないことをやったのだけれど、後回しにできることはすべて後でやる、という自分の悪いところを大変後悔することになる日だった。 …

冬の歌を背中に注ぐ

ふる雪はかつぞけぬらし あしびきの山のたぎつ瀬音まさるなり (古今/冬/319) 今日は働いたけど、やるべきことを棚に上げて生活が変わるなぁとぼんやり過ごしてしまった時間も長かった。そんな丸まった背中に冷水を注ぐべく、古今集の冬の部を読んでいた。 と…

物語と生活

秋の田の刈穂の庵の苫を荒み 我が衣手は露に濡れつつ (百人一首1/天智天皇) 中学生の頃からみみっちい節約をしてはほしい本を買っていた。 毎週土曜日はお昼代として500円をもらっていたのだが、学食では小ライス100円だけ買って、お茶を入れるコップに友達…