わたいりカウンター

わたいしの時もある

2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

もゆとは人に見えぬものから

やよひのついたちごろに、女につかはしける なげきさえ春を知るこそわびしけれ もゆとは人に見えぬものから (後撰/春中/65) ちょっと揚げ焼き卵を作っていた時の失敗を聞いてほしいんです。 ペペロンチーノの要領でニンニクをオリーブオイルで揚げていた時…

縄みたいになるまで

海原の沖つ縄苔(なわのり)うちなびき 心もしのに思ほゆるかな (万葉/巻十一/2778) 断続的に2年間プレイしていた『DEATH STRANDING』が、エンディングまでたどり着いてしまった。 配達はたのしい。*1 主人公は配達するためにいろんな道具を使う。崖から降…

駆け込み和歌

長いあいだ続きの巻が出るのを楽しみにしていた漫画『君と僕。』の最終巻が出ていた。それを読んだ、ので、本当におわってしまった。 しばらく力が抜けてしまって、それから行き場のない感情がわんさか。頭の中で情報がいつまでも完結しない語彙力のないオタ…

つらさを落として歩く

とものあづまへまかりりける時によめる白雲のこなたかなたにたちわかれ 心をぬさとくだくたび哉よしみねのひでおか(新古今/離別/379) よせば良いのにつらいことばかり考えてしまって、心が閉じてる時があります。 そういう時に歩いていると「もしここでう…

好きな「時雨」の歌 〜古今和歌集編〜 

このあいだハムスター短歌を紹介したときに、特定の語彙を含む歌を集中して読むのが存外にたのしかったので、和歌集でやってみようかなと思います。 というわけで好きな「時雨」の歌 〜古今和歌集編〜 です。 15首の中から、3首選んできました。どうぞお付き…

天気雨に降られた歌

柴の戸に入日(いりひ)の影はさしながら いかに時雨(しぐ)るる山べなるらん 清輔朝臣(新古今/冬/578) 夕暮れの天気雨を、山辺の庵で見たという歌。 詠者が、どこでこの歌を詠んだのかがわからなくて考えていました。 さて、家の中だと仮定するとおかしいこ…

あたらしさ

あたらしき年や我が身をとめくらん 暇行く駒に道を任せて 大納言隆季(新古今/冬/694) 21代集データベース*1で「あたら」で検索していた。今日は楽しみにしていたマンガの新刊が出る日で、「あたらしい」という概念に昔の人はどう向き合っていたのか気にな…

ハムスター短歌 ~エスプレッソも編~

最近のたのしみといえば、ハムスター短歌だ。 twitter.com このツイッターアカウントでハムスターが回し車を回すことによって生成された短歌は現在*1約400首ある。全部目を通すのもそんなに苦にならないが、しいて個人的なおすすめを挙げるのなら最近勢いの…

音が寂しくなる時

題不知 山河のいは行く水もこほりして ひとりくだくる嶺の松風 讀人不知(新古今/雑上/1575) 知ってるの人の仲睦まじさを祈ってしまうのは、どのくらい普遍的な感情なんでしょうか。 例えば、いつも公園でキャッチボールしてるのを見かける二人組が、今日は…

いつまで待てる?

だいしらず 山のはに雲のよこぎる宵のまは 出でても月ぞ 猶またれける 道因法師(新古今/秋上/414) この歌に、疫病の流行る昨今と少し重なる感情を見た気がしました。 月が見たいのに、地平線の次は山の端の雲に遮られてる、という歌。 宵というのは夜の中…

「つつ」から無限に味がする

京極關白前太政大臣高陽院歌合に 御狩野はかつふる雪にうづもれて とだちもみえず草隠れつつ 前中納言匡房(新古今/冬/687) 「とだちも」の意味がわからなかったのですが、よくみると前の歌に「鳥立(とだち)」とありました。御狩野の歌ですし「(狩りで狙…

みどりだった色

題しらず みどりなるひとつ草とぞ春は見し 秋は色々の花にぞありける よみ人しらず(古今/秋上/245) 訳すなら、「みどりなるひとつ草とぞ春は見し」みどり色でみんな同じ草だと春は思っていたけど、「秋は色々の花にぞありける」秋はいろんな色の花みたいだ…

カツオの刺身みたいな濃淡

村雲のしぐれてそむる もみぢ葉は うすくこくこそ色も見えけれ 覚延法師(千載/秋下/354) 値引きされていて買ったカツオのさくが、端の薄いところまでついていて、 切ると断面が水滴みたいな形になった*1。 赤身と血合いの赤色も相まって、その断面が幽霊と…

知らない人の気配に

堀河院御時百首歌たてまつりける時に、山家の心をよめる 山里の柴おりおりに立つけぶり 人まれなりと空に知るかな 二条太皇太后宮肥後(千載/雑中/1092) 詞書にある「山家」というのは文字通り山にある家のこと。 「柴折り」というのは、峠や村境にある祭壇…

本日はお日柄もよく

寛平御時きさいの宮の哥合のうた 吹く風と谷の水としなかりせば み山がくれの 花を見ましや (古今/春下/118) この歌の底抜けなポジティブさのことを考えていたら、自分に足りないタイプの社交性の気配が感じられてよかったので紹介させてください。 訳すな…

おぼつかないのは

おぼつかな霞立つらんたけくまの 松のくまもる 春の夜の月 (新古今/雑上/1474) めっちゃいい……初句に忠実でありながら、描かれる景色と心情の両方が濃い。込められた思いの切実さと、冷静な描写のギャップに憧れてしまいます。 前の歌の詞書に「橘為仲朝臣…

にほひつつ

にほひつつ散りにし花ぞおもほゆる 夏は緑の葉のみ繁れば (後撰/夏/165) 最近ドラクエ5をちまちまやっています。ゲームは一日30分まで。その掟を破ったり守ったりしながら親しんだ昔のことを思い出していました。 歌を訳すなら「にほひつつ散りにし花ぞお…

なんで移ろってるの?

年ごとに春はくれども池水に 生ふるぬなはは絶えずぞ有りける 順(拾遺/雑春/1058) 聞き慣れない「ぬなは」っていうのは蓴菜のことらしいです。スイレン目に類する水草の一種でぬるっとした若芽は食用でもあるそう。 歌を訳すなら「年ごとに春はくれども池…

雑草が伸びるまで

おほあらきのもりのしたくさおいぬれば こまもすさめずかるひともなき (古今/雑上/892) 訳すなら「おほあらきのもりのしたくさおいぬれば」大荒木神社の雑草が生えてしまっているから「こまもすさめずかるひともなき」馬も食べなきゃ刈ってくれる人もいな…

水の中でも

まだ知らぬ思ひに燃ゆる我が身哉 さるは涙の河の中にて (拾遺/恋五/962) スーパーで生餃子という商品を見かけたことはあるでしょうか。九個で百円くらいのリーズナブルな価格帯、溢れ出る肉汁と香味野菜の強い香り。食卓に、酒のお供に、重宝している人も…

耳で見て、目で聴く

題知らず 藻刈舟今ぞ渚に来よすなる 汀の鶴の声さはぐなり よみ人知らず(拾遺/雑上/465) 今日は暑い日でした。 投票所に行く途中、前を親子が歩いていました。ショルダーバッグを肩にかけた母親と、小学生らしき兄弟。 気づくと彼らの髪に目が釘付けになっ…

遠くの温度が見える

題不知 こりつめて真木の炭やくけをぬるみ 大原山の 雪のむらぎえ 和泉式部(後拾遺/冬/414) こないだ出先でゲリラ豪雨にあいまして。屋内に避難して、さていつ止むものかなと雨雲レーダーを見ていたのですが、どうにもわからない。過去の雨雲の様子は見る…

イノシシの寝床で寝てみたい

かるもかき臥す猪の床のいを安み さこそ寝ざらめ かからずもがな 和泉式部(後拾遺/恋四/821) 他の人の睡眠事情が気になる、ということはないのですが、動物が寝ている様子*1とかを見てるといやされますよね。猪が寝ているところを詠んだ歌*2を見つけたので…

峰にかかる雲を見て

熊野にまうで侍りし時、たてまつりし歌の中に おく山の木の葉のおつる秋風に たえだえみねの雲ぞのこれる 藤原秀能(新古今/雑上/1522) 秋風が吹いた結果を見る歌……なのですが、表面的な意味を追っていくのと、因果を示していると取るかで解釈が違ってきてお…

天の河三首

7月7日は七夕! 近所のスーパーの笹に短冊をつけていた時期が私にもありました。現代でもみんな知ってる七夕は平安時代でも人気で、七夕の歌がたくさんあります。彦星と織姫の恋愛譚は当時も有名で、空が晴れることを喜んだり、一途に思い続けることを仮託…

何なれや

草枕結う手許(ばかり)は何なれや 露も涙も をきかへりつつ (後撰/離別 羈旅/1366) 野宿するときに、そこら辺の草を集めて丸めて枕にしてるときに泣いちゃった歌。 「かへり」は、「辺りは静まりかえっていた」の「かへり」で「ひどく~する」の意味。訳す…

それと言わず

今朝の朝明(あさけ)秋風寒し遠つ人 雁が来鳴かむ時近みかも (万葉/巻十七/3947/家持) 昨日紹介した歌は情報量が多くて、自分でもちょっと食傷気味です。そんなわけで今日は、出汁の利いたお吸い物みたいなあっさりした歌を持ってきました。 訳すなら「今朝…

圧縮されて熱源

守覚法親王五十首歌合に 霜まよふ空にしをれし鴈がねの 帰るつばさに春雨ぞふる 藤原定家朝臣(新古今/春上/63) これは、こうして和歌を毎日紹介しようとして初めて気づいたのですが、私は夏のことがそんなに好きではないみたいです。というのも、暑さにう…

のっぺりと

ふる雪にたくもの煙かき絶えて さびしくもあるか しほがまの浦 (新古今/冬/674) のっぺりと暑い夏に冷蔵庫を開けるような気持ちで、冬の歌を紹介したいと思います。 訳すなら「ふる雪にたくもの煙かき絶えて」降ってる雪のせいで藻塩を焚く煙がふっと見えな…

サンダーに紹介したい歌

秋の月山邊さやかにてらせるは おつるもみぢの かずをみよとか (古今/秋下/289) 今日は七月一日でしたね。七月と言えば秋! 旧暦では秋ということになっています。 現実はまだまだ暑いですが、晩秋の切ない歌を見つけたのでちょっとお付き合いください。 …