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カレーうどんの日

 2日目にしてウィキペディアの今日は何の日を見ていた。

カレーうどんの日(日本の旗 日本)

1910年(明治43年)に東京目黒の蕎麦屋「朝松庵」が提供し、全国にカレーうどんが浸透してから100年目になる2010年、カレーうどん100年革新プロジェクトが制定。6月2日がかつて「横浜・カレー記念日」、7月2日が「うどんの日」であることから。*1

  カレーうどんの日。6月2日が横浜・カレー記念日で、7月2日がうどんの日だからって、8月2日はカレーうどんの日にはならないような気がするけれど、そのある種の前例主義に私は救われていた。書くことが決まった。

 うどんもカレーも出てくる小説でとても好きなのが高山羽根子「うどん キツネつきの」だ。

www.tsogen.co.jp

 冒頭で主人公ら姉妹が拾った犬みたいな生き物は、うどんと名付けられた。そんなタイトルにもなってるうどんだけど、うどんのシーンは少ない。50ページほどのこの短編は長女の視点で、高校生、大学生、社会人と時間とともにシーンが移っていく。

 冒頭のうどんを拾う場面は少し非日常感が漂うが、それ以降は日常が丁寧に描かれている。そのシーンひとつひとつに、派手ではない個人の生活がにじみ出ていて、短いシーン毎に時間はさくさく進むのに、置いてけぼりにされたような違和感を感じるどころか、一緒に生きていたような気さえしてくる。

 そしてラストにすべての伏線が白日の下になる!……というわけでは必ずしもない。けれど日々の暮らしの中でどのようなことをこの長女は思っていたのか、それを考えながら眺めるこのラストは結構稀有だと思う。

 道中にこんな冒険があって、こんな仲間がいて、というような明確な楔の先のラストもいいけれど、生活の中にちょっとずつ世界の秘密や人の業が隠されていて、気づいたらそれが目の前に迫っている。そんな話も読みたい。私はミステリの中でも日常の謎が好きだ。それを自覚してからSFを読み始めて*2、SFというジャンルのその世界の普通を描く誠実さがかなり好きだなと思っていた。その中でもこの「うどん キツネつきの」という短編は純文学よりの丁寧な現実の生活描写で、日常の側に体重を残し続けながら書かれた珍しいSF小説だ。

 また、読み返すたびに違うところが気になる小説でもある。今回はカレー周辺のシーンをゆっくり読んでいた*3。でも来年読み返すとしたら、やっぱり7月2日のほうがいいのかもしれない。

 

 

*1:8月2日 - Wikipedia

*2:「うどん キツネつきの」を初めて読んだのは『2010年代SF傑作選2 大森望・伴名練編』。いろんなおもしろい短編が入っていて各短編冒頭の編者解説もかなり濃くてたのしい

*3:小説ではうどんは固有名詞ですが、カレーは一般名詞で食べ物です