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あをによし

 大宰少弐小野老朝臣の歌一首
あをによし奈良の都は咲く花の
 薫ふがごとくいま盛りなり
 (万葉/巻三/328)

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 近鉄の観光列車の名前が「あをによし」になるとのこと。奈良を導く枕詞が列車の名前になるのは、列車が他府からくる観光客の最初に触れる奈良である点で、とてもふさわしいネーミングに感じます。鉄道には詳しくないのですが、和歌が好きな人間として嬉しいです。近年だと、年号はあまり得意ではないけど万葉集由来ということで嬉しかった令和のことを思い出しますね。
 ということで万葉集の初句があをによしである歌を調べていたのですが、11例と結構少なく、長歌、旋頭歌、反歌を避けると6例になりました。
 その中であをによしといえばこれだよな、という歌はやはり冒頭に挙げたうたになると思いました。
 太宰府で働いている小野老という人が、遠い都に思いを馳せている歌。
 ああ、我らが都奈良では、咲く花が自然と薫るくらいで今が盛りなんだろうなぁ、という意味になるでしょうか。
 古都となってしまった奈良ではなく同時代の首都として奈良を詠んでいるという点と、6例の歌の中でかなりストレートに奈良の都を思っている点でやっぱりあをによしといえばこの歌だよな、と思わされました。
 ……が、実はもう一つ理由がありまして、先程言いました太宰府の観光列車に「旅人」というのがあるんです。
 
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 これが先程の小野老の上司に当たる人、大伴旅人からとって「旅人」というわけでして、実は冒頭の歌は旅人の家での宴の中で詠まれたとも言われています。
 一介の和歌オタクとしては「あをによし」が小野老歌由来だとすれば、観光列車「旅人」とともに十世紀以上の時を越えて、上司と部下がそれぞれ同時代の福岡と奈良の観光列車の名前に深く関わっていることになるわけで、奇妙な縁もあるものだと思ってしまいます。
 太宰府から遠く離れた都の花の盛りを思う冒頭歌の構図に、万葉歌人への注目が、奈良時代から遠く離れた令和の観光列車名にみえるという構図を透かし見てしまいますね。