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わたいしの時もある

立つ鳥

しらくもにはねうちかはしとぶ雁の

 かげさへみゆる秋の夜の月

  (和漢朗詠集/秋/259)

 今荷造りをしている。宅急便の複数口を利用するため、なんとか5の倍数の数に段ボールを抑えたくて、必死に靴下やインナーを本と本の間に緩衝材になってくれることを願って詰め込んでいる。
 よしんばこれが終わったとしても、複数口伝票の書き方を調べて集荷依頼をせねばならない。書類手続きを後回しにしたすぎて、受け取る人が伝票を書くような時間の流れの狂った*1世界線に一瞬憧れてしまった。数奇な世界ですね。(仮にそういう世界があったとして、今私がやらないといけないのは荷解きだったりするんでしょうか。)
 あーだこーだと理屈を並べて、めんどくさい作業やら書類記入やらをやり渋っているのを文章にしてみると、自分は大概ものぐさで、立つ鳥跡を濁さずとはなかなか行かないなぁと思う。むしろ飛び立つ前に虚空に向かって駄々をこねているむなしい鳥である。じゃあ理想の鳥の飛ぶ後ろ姿ってどんなだろうかと考えながら和漢朗詠集をめくっていたら冒頭歌を見つけた。

 棚引く白雲に時折、羽を重ねながら飛んでいく雁の、姿までも見えるくらい明るい秋の夜の月だなぁ、という歌。
 私は秋といえば月、というイメージを和歌からというよりマクドナルドによって植え付けられている気がするけれど、こういう歌を読んでしまうと、まず秋の月が美しいという事実があったのだなと思わされる。
 雁のつばさが白雲の影と重なるのが見えるくらい、明るい秋の月の景色が綺麗だったのだろう。私もとっとと荷造りをして伝票を書いて集荷依頼をしたら、あんな風に綺麗に飛べるだろうか。
 引用元を和漢朗詠集としているけれど、古今和歌集にも入っている歌で、初出は古今の方なので本来ならそちらを書くべきだが、もうダンボールにしまってしまっていて、手元にあるのが講談社学術文庫和漢朗詠集だけなので、今日のところはご勘弁いただきたく。
 

*1:向こうからしたらこちらの世界の方が時間の流れが狂っているということになる