わたいりカウンター

わたいしの時もある

ついつい大事にしてしまう

ひととせに再びも来ぬ春なれば
 いとなく今日は花をこそ見れ
 (後拾遺/春/110/平兼盛

 帰り道、居酒屋なのか道路にはみ出た席で料理人が串焼きをしていた。目の前にはお客さんがもちろんいて、焼き加減について歓談している。不意に料理人が串焼きの炭に向かって掲げたのは、うちわほどの大きさの小さな扇風機だった。
 今日は随分前に行ったっきりだったバーテンダーさんに久しぶりに挨拶をして、しんどかったこととか、今やってることとかを片手間に聞いてもらっていた。
 私はジンという種類の酒が好きなのだが、それを話すと「ジンはダメ人間御用達の酒だから」*1と言いつつジンのおすすめの銘柄や飲み方を教えてくれた。
 
 冒頭歌は、一年の間ではもう二度とこない春だから、思わず今日は花ばかり見てしまう、という意味。
 最近、自分のダメっぷりを許容し始めていて、現状を肯定してその中でマシな部分を何とか伸ばせたらいいな、とぼんやり思っている。
 そんな中で、ダメさを指摘しつつ自分のダメさも共有してくれるバーテンダーさんのスタイルはかなりありがたいな、と思ってしまった。
 今を見つめて、大事にするというのは、春もそうだし、ほのかに話を聞いて頷いてくれるバーテンダーのあり方としても素敵だったし、店頭で串焼きをする料理人が炭に風を吹きかけ温める、小さな火種を大事にする様を見てもなんとなく近しいものを感じてしまう。
 こういう、仕事が始まったばかりで日々を愛おしんでしまうのも、一年の中で一度しかない春のように、一生のうち一度くらいだろう。
 恥ずかしいことを綴っているとは思うが、多めに見ていただけたら幸いである。

*1:諸説あります。