わたいりカウンター

わたいしの時もある

袖口のあたりは寒くないか

衣手は寒くもあらねど月影を

 たまらぬ秋の雪とこそ見れ

  (後撰集/秋中/328/紀貫之)

 有名人の誰と似てるか、という他愛ないおしゃべりの話題がある。
 周りの人は何かしらそれがあるのだが、自分だけ取引先の某氏、ということになっている。
 その人とは未だ会ったことがないのだが、どうやら向こうはそのことを知らないらしい。
 有名人と違って、この場合はどちらもご本人である。会ってみたらそんなに似てない、というパターンであってほしいところだ。

 冒頭の歌は、袖口はまだそこまで寒くもないけれど、月の姿が(あんまり白いので)積もらない秋の雪みたいに見えるよ、という意味。
 私が思うに、先に白い月光が照らす景色を雪みたいに思ったところが先で、でも寒くはないけどね、秋だし、とこういう理屈で作られた歌なのではないか。
 雪みたいに見えた秋の月が、雪ではないと確かめるため自分の袖口が寒くないか確認するところがこの歌の着眼点のおもしろいところだ。
 雪景色が白梅に見立てられるのは知っていたけれど、月景色が雪に見立てられるのは初めて知った。
 私も、だれか他に似ている有名人がいたら良いのにな。