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天の河三首

 7月7日は七夕! 近所のスーパーの笹に短冊をつけていた時期が私にもありました。現代でもみんな知ってる七夕は平安時代でも人気で、七夕の歌がたくさんあります。彦星と織姫の恋愛譚は当時も有名で、空が晴れることを喜んだり、一途に思い続けることを仮託したりする歌が詠まれました。

 天の河という語は七夕でよく使われる語です。今回は後撰集から天の河の歌を三首紹介します。

 

  題知らず

天の河水まさるらし夏の夜は

 流る月の淀む間もなし

(後撰/夏/210)

 夏は月がすぐに見えなくなってしまうことを歌った歌。「淀む間もなし」とは雲に遮られずに綺麗に見えると言うわけではなく、空を動くのが止まらないという意味。
 「なぜ月が早く動くのか」という問いに、「天の河水まさるらし」天の河が増水してるから(流れが速いから)という連想が気が利いてますね。詠者は話を振ったらすぐに乗っかって膨らましてくれるタイプかもしれない。
 それにしても、天の河の流れが速いと彦星が心配ですね。

 

天の河岩越す浪のたちゐつる

 秋の七日の今日をしぞ松

(後撰/秋/240)

  河の浪が激しいのに託して、人に会うのに落ち着かずそわそわしてるのを詠んだ歌。浪は浪でも「天の河」の浪が、としてるので恋愛色が漂います。また、その河が荒れているから、川を渡りづらい、会いに行きづらいような、どちらかというと後ろ向きにそわそわしてるのもわかる。さらに七夕のイメージから、年に一回しか会えない、久々に会う人なのかな?というところまで想像させる。天の河って語彙の情報量、ニュアンスがこれでもかと発揮されています。
 

天河冬は氷に閉ぢたれや

 石間にたきつ音もだにせぬ

(後撰/冬/488)

 天の河って冬で氷が張ってるの? 岩の間を激しく流れる水音も全然しないね、という歌。
 確かに! 流れ云々言うなら音がしてもよさそうなもの。天の河大喜利を次のステージに進めた感があります。
 それにしてもこの歌、詠者はいつ思いついたんでしょう。
 天の河といったらやっぱり七夕。
 七月に思いついて、河に氷が張る冬まであっためてたんでしょうか。