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わたいしの時もある

イノシシの寝床で寝てみたい

かるもかき臥す猪の床のいを安み

 さこそ寝ざらめ かからずもがな

和泉式部(後拾遺/恋四/821)

 他の人の睡眠事情が気になる、ということはないのですが、動物が寝ている様子*1とかを見てるといやされますよね。猪が寝ているところを詠んだ歌*2を見つけたのでちょっと聞いてくださいな。

 訳すなら「かるもかき臥す猪(ゐ)の床のいを安み」枯れ草がたくさん敷かれた猪の寝床での眠りっぷりがあんまり安らかだから「さこそ寝ざらめ かからずもがな」ここまで安眠できるとは思わないけど、せめて思い悩んで(眠れないってことが)ないといいのにと思ってしまう、という感じでしょうか。*3

 猪の睡眠に憧れる様子がちょっと面白いし、かといって他人事とも思えないんですよね。ぐっすり眠りたい。
 また、調べもいいんすよ。上二三句目「臥す猪(ゐ)の床のいを安み」の「ゐ(い)」の繰り返しも気持ちいいし、初句と結句の「かるもかき」「かからずもがな」のゆるい類似も、近いコードが使われたAメロとサビって感じでキャッチーです。
 恋の部の歌ではありますが、懸想を心配事と拡大解釈するなら色んな人に届く歌でしょう。何かとしんどい昨今ではありますが、お互いよく眠れるといいよねって思います。読んでる人へも、和泉式部へも。

 

 

*1:こちらスナネコの寝ている様子がちょっとだけ出てきます

 

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*2:猪が出てくる歌、かなり珍しい気がします

*3:簡単に語彙紹介を。上の句「床のい」の「い」とは寝ることです。また下の句「かかる」は懸想するの「懸る」。
 上の句の「臥す」は自動詞で「眠る」の意味もありますが、後で「い」が出てくるのもあり、今回は他動詞で「横たえる」転じて「敷かれた」と訳してみました。