わたいりカウンター

わたいしの時もある

おぼつかないのは

おぼつかな霞立つらんたけくまの

 松のくまもる 春の夜の月

(新古今/雑上/1474)
 めっちゃいい……初句に忠実でありながら、描かれる景色と心情の両方が濃い。込められた思いの切実さと、冷静な描写のギャップに憧れてしまいます。

 前の歌の詞書に「橘為仲朝臣、みちのおくに侍りけるとき、歌数多つかはしける中に」、また作者は「加賀左衛門」とあるため、この歌も同じく加賀左衛門が、陸奥へ出張した橘為仲に送った歌とみていいでしょう。

 訳すなら「おぼつかな霞立つらんたけくまの」はっきりしない霞が立つような武隈の「松のくまもる 春の夜の月」(霞のように茂った)松の影からもれる 春の夜の月(みたいな心細さだなあ)、という感じでしょうか*1
 まず歌に詠まれた景色を追っていくのも楽しい。霞の白いぼんやりしたイメージが、夜の鬱蒼とした松の葉を下から見上げた光景に置き代わり、そこから頼りなげに月光が落ちてくる。
 その「おぼつかな」のイメージを伝えることによって、帰りを待っていること、それがどうにも頼りなくてつらいという心のありようまで伝えています。イメージは儚くとも、歌の意味ははっきりと雄弁です。