あさりすと磯に住む鶴明けされば
浜風寒み己妻呼ぶも
(万葉/巻七/雑歌/1198)*1
スーパーで不揃いなすを買った。サイズがまちまちである代わりにたくさん入って安かったのだ。だが切ってびっくり、虫食いがあった。半分に切った時に、中にいたいも虫ごと切ってしまった。ナスの白い断面には食べた跡が空洞になって残っていた*2。
歌を訳すなら「あさりすと磯に住む鶴(たづ)明けされば」(食べ物を)漁っていて磯にいた鶴は、朝になったので「浜風寒み己妻(おのづま)呼ぶも」浜風が寒くて自分の妻を呼んでいる、という感じでしょうか。
「明けされば」が、朝日がのぼって白さ際立つ浜辺の景色を「朝」という言葉を使わずに眩しく描いていて、それがぽつんと一羽でいる鶴の寂しさを浮き彫りにしています。
普段だったら「そういうものか」とスルーしていたと思うのですが、ナスの白い断面で死んでいた虫がフラッシュバックしてしまって、今日のメンタルにこうかはばつぐんでした。申し訳ないことをした。
それにしても「磯に住む鶴」なら詩的でも「ナスに棲む虫」だとホラーです。けれど、仲間のいないところでぽつんと一匹佇んでいる様子が彷彿とさせる寂しさは、鶴も虫も変わリませんでした。そしてたぶん、人も変わらないよ、という歌なのですね。