ぬばたまのその夜の月夜今日までに
我は忘れず間なくし思えば
(万葉/巻四/702)(「河内百枝娘子、大伴宿禰家持に贈る歌二首」のうちの一首です)
スマホやモニターの画面は電源がオフになっている時まっくろになりますね。それが明るい周囲や自分の顔を写してるのを、多くの人が見たことがあると思います。
「ぬばたまの」は闇や夜など暗い言葉を導く枕詞です。今回は「その夜」を導いています。
歌を訳すなら、「あの月夜の晩を、私は忘れていません。あなたのことを絶えず思っているから」という感じでしょうか*1。
ところで、闇は光が遮らない状態の連続とも言えるでしょうか。もしそうなら、この歌の「ぬばたまの」は枕言葉として「その夜」を導く他に、「間なくし」にも深みを与えているような気がしています。「すかすかの闇」というのがあればうっすら明るいような気がしますし、「(間のない)みっしりとした闇」があったならきっと途方もない暗さなのではないかと思うのです。
例えば「ぬばたまの」に「電源落ちたモニターの」と続けられるか。自分の顔が見えそうであんまりしっくりきません。でも誰かを思っている時の闇に、相手の顔が浮かぶときなど「ぬばたまの」は使えるはずです。