わたいりカウンター

わたいしの時もある

いつも窓の外の

大宮の内まで聞こゆ網引きすと
 網子ととのふる 海人の呼び声
(万葉/巻三/長忌寸奥麻呂/238)

 囲碁将棋部に所属していたせいか、放課後、校庭から聞こえる運動部の声を教室から聞くことが多かった。
 歌は、宮殿の中にまで、網を引くかけ声が聞こえると歌っています*1
 たくさんいる網子(あご)を指揮するため、海人(あま)が一人声をかけるという構図が、幾重にもおもしろを生んでる気がしています。
 歌の意味としては、一人の声が遠く屋内まで聞こえると描くことで、その声の大きさを強調しています。
 また、これは想像になってしまうのですが、上司(海人)の掛け声に続いて、網子たちの声が聞こえる直前までを描いているような気がするんです。つまり、もっと大勢の大きな声が宮殿にまで響いた、という一番のサビみたいなところは歌で描かず読者の想像に委ねている。もしそうなら、昔の歌にコールアンドレスポンスされてるみたいで楽しいんですよね。
 大きな声で指示を出す、というのは一方で応援だったりアジテーションのニュアンスも伴う気がしています。ずっと屋内にいる時に、威勢のいい声が外から聞こえた時の、冷房の効いた部屋から出てまで運動をしたい欲がせり上がってくる感覚をちょっと思い出してしまいました。

*1:参考:「萬葉集 1」日本古典文学全集