わたつみとあれにしとこを今さらに
はらはば袖やあわとうきなん
伊勢(古今/恋四/733)
8月も残りわずか。そういえばもう何年もプールに入っていないことに気づきました。
歌を訳すなら「わたつみとあれにしとこを今さらに」(涙で)大荒れの海みたいになっている床を、今さら「はらはば袖やあわとうきなん」払ってみてもただ袖が泡みたいに虚しく浮いてしまうだけだろうか、という感じでしょうか*1
涙が海みたいになっている、という誇張表現が目をひきますが、歌の核は「今さらにはらはば」以下の、自分ではもうどうしょうもない感情に対して半ば諦めているところのような気がします。
服を着たまま泳ぐのは難しいように、悲しみの染み込んだ心はなかなか浮かび上がれない。恋の歌ではありますが、最近感じている閉塞感と無力感が、この歌と近しい気がして、少しだけ和らぎました。
もう最後にプールに入ったのがいつだか、わからなくなってしまいました。ゴーグルをつけてプールの底から水面を見る時の、くぐもった音と光も、ぼんやりとしか思い出せません。
今、キーボードを叩いているこの部屋が、もし海みたいに水で満ちたらと考えました。……本が濡れるのは困ります。シュノーケルが欲しいな。
深呼吸をしてみたら、意外と空気が周りにあることに気づきました。