わたいりカウンター

わたいしの時もある

音が教えてくれる

ねやの上にかたえさしおほひ そともなる
 葉ひろ柏に霰降るなり
能因法師(新古今/冬/655)

 家でエナジードリンクをたまに飲む。味は好きだけれど、毎日のむとだんだんおいしく感じなくなるから不思議だ。頭で好きと思っていても、内臓の方はエナジードリンクのことが嫌いなのかもしれない。
 冒頭歌は、家の軒先を覆う葉の広い柏に霰が降っている、という歌*1
 歌の核はやはり下の句「柏に霰降るなり」だと思う。大系の頭注には、それが「葉ひろ(広)」の柏であると歌うことで、霰が葉っぱに当たって出る音がよく聞こえることを示しているとある。なるほど〜異論なし! それを起点に上の句「ねやの上にかたえさしおほひ」の部分を考えると、普段、茅葺の屋根からは霰が降ってもあまり音はしないけれど、今日のあられではやけに音がする、軒先を見上げてびっくり「葉ひろ柏」、とこういう経緯があったのではと妄想する*2
 歌を読んでいるうちに、ばらばらと小粒のあられがビニール傘を鳴らすような音を想像してちょっと和んでしまった。ビニール傘ならあられが当たっていると一目でわかるけれど、屋根の上から心当たりのない音がしたらちょっとギョッとするだろうなとも思う。
 このあいだ家でエナジードリンクを飲みつつ考え事をしていると、身に覚えのないノイズのような音が耳をかすめた。なんだなんだ?と音の源を探ると、エナジードリンクの缶から、かすかに、炭酸の泡が缶の底から上がってくる音がしていた。飲み物から炭酸の抜けていく小さな音が聞こえるくらい、部屋が静かだった。

 

*1:参考:「新古今和歌集日本古典文学大系

*2:能因法師がどんな屋根の家にいたのかはわからないので妄想です。能因法師の他の歌を調べ尽くせばある程度推測はできるのかもしれない。