和田の原八重の鹽路にとぶ雁の
翅の波に秋風ぞふく
(金槐/秋/海上雁/235)
金槐和歌集は源実朝の歌を集めたものです。
実朝はどうして海の原(わたのはら)を「和田の原」と書いたのか、わからないですが、たくさん言いたいことがあるような気がしますが、それはいったんしまっておいて、歌を見ていきたいと思います*1。
歌を訳すなら、「和田の原八重の鹽路(しおぢ)にとぶ雁の」海の長い旅路を飛ぶ雁の「翅(つばさ)の波に秋風ぞふく」翼の羽々につめたい秋風が吹いている*2という感じでしょうか。海上の雁の旅路を、翼に吹く秋風を通して描いています。八重の潮路とは、長い海上の道を表す表現なのですが、この「八重」という言葉の、雁のつばさの風を受ける羽が一枚一枚重なっていることを連想させてくれて、その翼にあたる秋かぜのつめたさまで想像する導線も兼ねる機能美に、思わずため息をつきました。
ところで、雁は春頃に去っていって秋頃にまた戻ってくる渡鳥です。日本に住む私たちにとっても実朝にとっても、秋の雁の旅路、というのは雁がこちらに向かっている道中を示しているのだと思います。その雁の翼につめたい秋風が吹く。なんとも、不穏な感じがします。
誰かを待つ身の上で、その旅路の長さを「八重の鹽路」と指摘して、その翼に「秋風ぞふく」と想像する時、核にある感情は心配なのではないでしょうか。
鎌倉将軍であった実朝の家臣には和田という氏の家もありました。実朝と和田氏の関係は、もしかしたらそんなに悪くなかったのかもしれないと思いました。
来週の大河ドラマでは和田合戦がはじまりそうです*3。