わたいりカウンター

わたいしの時もある

2021-01-01から1年間の記事一覧

袖口のあたりは寒くないか

衣手は寒くもあらねど月影を たまらぬ秋の雪とこそ見れ (後撰集/秋中/328/紀貫之) 有名人の誰と似てるか、という他愛ないおしゃべりの話題がある。 周りの人は何かしらそれがあるのだが、自分だけ取引先の某氏、ということになっている。 その人とは未だ会っ…

たぶん終始泣いているのは私だけ

夕闇は道も見えねど旧里(ふるさと)は 本来(もとき)し駒にまかせてぞ来る (後撰/恋五/978) 返し 駒にこそまかせたりけれあやなくも 心の来ると思ひける哉 (同/979) 夕闇が広がって道も見えないけれど、住み慣れていた里だから旅立った時の馬に任せて戻ってき…

初雁のはつかに聞きし

初鴈のはつかに聞きし言づても 雲ぢに絶えて侘ぶるころ哉 (新古今/恋五/1417/源高明) たまに会う人もいるが、高校時代の友人の中にはまったく音信不通という人もいる。 卒業後しばらくは、ふとしたことでその友人のことを思い出しては「こんなことあったよ」…

境目は金曜日

立ちはなれ澤べになるる 春駒はおのがかげをや友とみるらん (後拾遺/春上/46/源兼長) 金曜日!先週はあまり実感がなかったけれど今週はとても金曜日です。行きに持っていた大きな荷物が帰りはなかったせいか、週末向けて足取りが軽やかになってしまった。 冒…

呼吸の仕方

ぼんやりしているうちに、突然、経口補水液になりたいと思った。なぜそう思うのか考えていたら「美味しくないけど必要とされるから」かもしれなくて、かなり苦々しい顔になった。 疲労が溜まってくると本当に感情が動かなかったり、なんの比喩も出てこなくな…

人に一度話した事を、もう誰にも言いたくないという気持ちがある。 かといって、会う人会う人に違う話ができるわけでもない。あまり同じ話をせずに済んだのは、交流範囲が狭かったからというのもありそうだ。 本来なら色んな人に、その時話したいことを話し…

ついつい大事にしてしまう

ひととせに再びも来ぬ春なれば いとなく今日は花をこそ見れ (後拾遺/春/110/平兼盛) 帰り道、居酒屋なのか道路にはみ出た席で料理人が串焼きをしていた。目の前にはお客さんがもちろんいて、焼き加減について歓談している。不意に料理人が串焼きの炭に向か…

されたくない勘違い

庭の雪に我が跡つけて出でつるを とはれにけりと人やみるらん (新古今/冬/679/慈円) 自分で書いている文章を、自分で読み返したりする。あの霧の歌について書いていた気がするけど、そのときどんなふうに書いていたか気になったり、私的なことと歌のことが良…

なぜ書くのか

私的なことを書くことと、和歌の話を普遍的に語ることについて迷いがあったけれど、まあいいかと、自分の生活を和歌と照らし合わせながら生きて書いていくしかないのだと思わされた。 私がかなりリスペクトしているブログを書く人と話す機会があって、その中…

白真弓

天の原振り放(さ)け見れば白真弓(しらまゆみ) 張りてかけたり夜道はよけむ (万葉/巻三/289/間人大浦) 「白真弓」という語彙の意味を知ると、この歌がぐっとわかりやすくなると思う。 『鬼滅の刃』という作品が多くの人の耳目を集めている。大正時代を舞台に…

先の見えないことを

佐保河のきりのあなたになく千鳥 聲はへだてぬ物にぞ有ける (後拾遺/冬/390/堀河右大臣(源俊房)) 仕事を覚えなきゃ!そう思って、覚えられたものもあるし、あっぷあっぷもしていた今週。1日に覚えられる新しいことには限界がある。 勘所を見つけられず、全部…

日陰を通る風

谷風にならずといかが思ふらん 心ははやくすみにしものを (後拾遺/雑三/1036/藤原公任) 学生時代、受験勉強を私なりにしてきたつもりだったけれど、第一志望には受からなかった。浪人するほどの執念もなくて、これ以上親に迷惑もかけられないと思って、たま…

感情と紐付いてしまう

明日の夕(よひ)照らむ月夜は片寄りに 今夜(こよひ)に寄りて夜(よ)長からなむ (万葉集/巻七/1072) ゲームは一日1時間だった子どもの頃に、よせば良いのにぼろ泣きして地団駄を踏んでちょっとだけ延長してもらったり、次の日の分を前借りしたりしていた。この…

元気な鴨と

冬の池の鴨の上毛に置く霜の 消えて物思(ものおもう)ころにもある哉 (後撰/冬/460) 冬の池にいる鴨の羽の上の霜がすぐに消えてしまうように、消え入るように物思いにふけっている、という歌。 新しい職場の人たちは皆優しく、そして一癖も二癖もある面白い人…

確認

今日は初めて勤務地に行ったり、お世話になってたバーテンダーさんとこに顔を出しに行ったりして、人生がちょっとずつ動いている気配があった。 帰り道にたまたま入った長崎ちゃんぽんの店が、かなり前、お酒と関わり出したくらいの頃に入った店だったと途中…

袖さへ濡れて朝菜摘みてむ

冬十一月、太宰の官人等、香椎の廟を拝みまつり訖はりて退り帰る時に、馬を香椎の浦に駐めて、各懐を述べて作る歌 帥大伴卿の歌一首 いざ子ども香椎の潟に白たへの 袖さえ濡れて朝菜摘みてむ (万葉集/巻六/957/大伴旅人) さあみんな、香椎の干潟に真っ白の袖…

初めてマトリックスを観た

もののふの磐瀬の社(いはせのもり)のほととぎす 今も鳴かぬか山の常陰(とかげ)に (万葉集/巻八/1470/刀理宣令) たまたま機会があって、さっきまでマトリックスを観ていた。グラサンスーツ、大きくのけぞって銃弾をよける、以外のイメージが全くない状態で、…

「らむ」ってどういう意味?

我が背子が見らむ佐保道(さほぢ)の青柳を 手折りてだにも見むよしもがも (万葉集/巻八/1432/春の雑歌/大伴坂上郎女) 高校生の頃の体育祭は、川を越えた先の運動場で開催されていた。運動が得意な方ではなかったからか、三年間の勝っただの負けただのは全く覚…

能宣と浪は言伝を頼まれる仲

筑紫へ下りける道にて須磨の浦にてよみ侍りける 大中臣能宣朝臣 須磨の浦をけふすぎゆくときし方へ 帰る浪にやことをつてまし (後拾遺/羈旅/520) 筑紫へ下っている道中で須磨の浦で詠まれた歌で、須磨の浦を今日通り過ぎるところだと、今私が歩いてきた方へ…

立つ鳥

しらくもにはねうちかはしとぶ雁の かげさへみゆる秋の夜の月 (和漢朗詠集/秋/259) 今荷造りをしている。宅急便の複数口を利用するため、なんとか5の倍数の数に段ボールを抑えたくて、必死に靴下やインナーを本と本の間に緩衝材になってくれることを願って詰…

馬内侍集注釈がほしい!

人の氷を包みて、身にしみてなど言ひて侍りければ 逢ふことのとどこほるまはいか許(ばかり) 身にさへしみてなげくとか知る (後拾遺和歌集/恋一/馬内侍) この間*1、恋人に見せようと思って手で雪をすくったけど、端からとけてしまった万葉の歌を扱って、二人…

物思いに沈む

大船の香取の海に碇おろし 如何なる人か物思はざらむ (万葉集/巻十一/2436/物に寄せて思を陳(の)ぶ) アニメや漫画などで、水中に沈みながら考え事をするシーンに遭遇することがある。お風呂に沈みながらだったり、海だったり。 私は幼い頃中耳炎でプールに入…

冬と春の境目

万葉集の冬から春に変わる頃の歌を2首紹介したい。 梅の花降り覆ふ雪を包み持ち 君に見せむと取れば消につつ (万葉集/巻十/雪を詠む/1833) 梅の花を覆うように降り積もっている雪を手で掬って持って、あなたに見せようと取ったらとった先からとけてしまう、…

八重葎の歌2首

八重葎しげれる宿のさびしきに 人こそみえね秋は来にけり (百人一首/恵慶法師/47) 八重葎しげきやどには夏虫の 声より外に問ふ人もなし (後撰和歌集/夏/194) 葎(むぐら)というのは人が来ない荒廃した家屋に伸びる蔓のような植物のことである。そんな葎が幾重…

生活が変わったり油断したり

朝びらき漕ぎ出て来れば武庫の浦の 潮干の潟に鶴が声すも (万葉集/巻十五/3595) 朝、船を漕ぎ出して来てみると、武庫の浦の干潟に鶴の声がするなぁ、という歌。 元々潮が満ちていたところが一面干潟になっている、その広い視野いっぱいに鶴の声が響いている…

夜に立つ霧の歌3首

ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく 照れる月夜の見れば悲しき(万葉集/巻六/982)*1 「ぬばたまの夜霧」という表現は、枕詞の「ぬばたまの」で57577のキャンバスを真っ黒に塗りつぶして、その上から白を霞ませながら乗せていくようなイメージが浮かんで魅力的…

漠然とした期待の裏地

わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの雲ゐにまがう沖つ白波 (百人一首/藤原忠通/79) 大海原に漕ぎ出してみると、白く輝く雲と見間違えるような沖の白波が見える、というような意味になる。 この歌、皆さんはどういうイメージを持つだろうか。 清々しい海の景…

安部広庭の歌2首

万葉の歌人、安部広庭の歌は少なくとも集中に4首ある*1。その中で今回は「家路」「我が宿」と家に関する語が使われている2首を紹介したい。 子らが家路やや間遠きをぬばたまの 夜渡る月に競ひあへむかも (万葉集/巻三/302) 子供達が待つ家までの道は今少し遠…

それしか考えられない

春日野の浅茅が原に遅れゐて 時ぞともなし我が恋ふらくは (万葉/巻十二/3196) この8月、右手首が骨折していた。朝起きて激痛が走り、捻ったのではないかと1日冷やして様子を見ても全く収まる気配がなく、むしろ痛みを増していた利き手の手首は翌日整形外科で…

どうやって伝えるか

もろともにあはれと思へ桜花 花より他に知る人もなし (百人一首/66/大僧正行尊) 今日は書くことがなかなか見つからなかった。穏やかな一日なのはよかったけれど困ってしまう。そんな時この歌を見つけた。 意訳するなら、お互いに今をいつか懐かしんでくれよ…