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わたいしの時もある

たのしい夜

ぬばたまの今夜の雪にいざ濡れな
明けむ朝に消なば惜しけむ
(万葉/巻八/冬の雑歌/小治田東麻呂/1646)

 「明けない夜はない」というフレーズがなんとなく苦手でした。理由を言い尽くすのは難しいですが、自分が後ろ向きな性格だというのもありますし、「夜の来ない1日はない」みたいな反対の言葉を考えて毒付いていた自分が恥ずかしいからかもしれません。
 歌を訳すなら「ぬばたまの今夜(こよい)の雪にいざ濡れな」今夜の雪でさあ濡れようぜ「明けむ朝(あした)に消なば惜しけむ」明けて朝になって消えちゃうのが惜しいから、という感じでしょうか*1
 最初読んだ時は「いざ濡れな」さあ濡れよう!に面食らったのですが、明日になったら消えちゃうかもしれないから、という理由に親しみを感じてしまいました。明日にはとけてしまいそうな雪なら、そんなに大雪ってわけでもなさそうですし、寒さよりも雪ではしゃぐ高揚を楽しめそう。もし誘われたら私も外に出てしまうと思いました。
 「明けない夜はない」というフレーズの苦手な理由が、この歌を読むにつけわかってきました。このフレーズのメッセージの真意は「つらいことにもいつかは終わりが来る」というもので、その考え方自体には反対も賛成もないのですが、その、つらいこと=夜という図式がどうもしっくり来なかったのだと思います。夜には夜の楽しみがある。人の寝静まった夜にこそ作業が捗ったりするし、なんなら明日には消えちゃうだろう雪を楽しんだりもできるわけです。早く東麻呂と連絡先を交換して深夜に作業通話したいです。

*1:参考:「萬葉集(2)」日本古典文学全集