わたいりカウンター

わたいしの時もある

20230612

 かなりとりとめのない雑記です。

 万葉集だとか、昔の歌をかいつまんで読んでしまいがちなのですが、最近はごくごくゆっくりと短歌研究年鑑2022を読んだりして現代短歌にも親しんでします。

「奥」というテーマで選歌しているときに、万葉集では

近江の海沖つ島山奥まけて
吾が思ふ妹が言のしげけく
(万葉/巻十一/寄物陳思/2439)

というのを見つけて、「近江の海沖つ島山奥まけて」近江の海(琵琶湖)の沖の島山ではないが、将来をかけて「吾が思ふ妹が言のしげけく」わたしが恋慕っている相手は何かと噂が多い*1、という感じの歌なのですが、ここでは「奥」が距離的に遠いところからの派生なのか、将来、と訳されていて「奥」にはいろんな用法があるのだと感心していました。

 短歌研究年鑑の方では「奥」については、あまり見つけられなかったのですが、代わりにいくつかいいなと思う歌があって、その中の 加藤はるよ さんの

こもり居の老いの身励まし歩きたる
膝疼く夜を雨降る音する

というのが読めば読むほど味のする歌で。流行り病蔓延る2022にあって「こもり居」という言葉がずっしりと質量を持っているところ。それから「雨ふる音する」が、「膝疼く」や「こもり居」の原因としての雨を描くと同時に、「励まし歩きたる」の「励まし」にかかって応援のリズム、例えばスネアドラムの音なんかを見立ててたりもしないかなとか。考えすぎかもしれませんが、老いや社会の大変さと、己を鼓舞するところ、歌の二つの要素が雨音のニュアンスを豊かにしていて、何日かかけて何度も思い出しては考えてしまう歌でした。

 歌の本筋とはずれますが、ここから「こもり」という語に興味を持ちました。ざっと八代集総索引で見ると見つからず(本当はあるのかも)、こちら万葉百科 奈良県立万葉文化館*2で検索してみると、万葉集には「こもり」の歌が結構あることがわかりました。で、その中でいいなと思った歌が前の記事の

近江の海沖漕ぐ船に碇おろし
隠りて君が言待つわれぞ
(万葉/巻十一/寄物陳思/2440)

だったのですが……なんとこの歌、さっき最初に紹介した万葉歌の隣の歌だったんです。まずおどろいて、それからうれしいやら悔しいやら。読んでいる漫画なんかで、モブだと思ってたキャラクターが後々本筋に絡んできたりするのはただただうれしい*3のですが、自分が主体としてそれをするとなると複雑ですね。すれ違ってた人と再会する*4のはありがたいけど、どこかでちゃんと挨拶できてたらなとか思ってしまうというか。紙の辞書と電子辞書の違いであーだこーだいっていた頃*5、紙の辞書のメリットとして、両隣の項目も自然と目に入っていろんな言葉が覚えられるというのがありました。学生時代、紙の辞書をなんとなくでいいなと思っていたわたしはその意見にしたり顔で頷き賛成していたのですが……それをわたしは紙の万葉集でやって、気づけなかった訳なので、こう、くやしいなと。これからは左右確認を忘れずに歌を読みたいです。*6

*1:参考:「現代語訳対照 万葉集(中)」旺文社文庫

*2:訳も載っているかなり使いやすいデータベースなのでおすすめです。最近はここと旺文社文庫万葉集を読んでます

*3:ワールドトリガー」のあの人とかあの人とか

*4:今日ドラクエ2を初めてプレイしてサマルトリアの王子とすれ違ったりしていたので余計おもしろかった(この情報いる?)

*5:今のAIの議論からしたら話の規模がとてもかわいい……

*6:自分の粗忽さで生まれた偶然ですけど、やっぱりうれしいというかテンション上がったのも確かで、こういうおもしろがまたあったらいいなと思って続けられる側面もあるよなと

 *6.1

UNISON SQUARE GARDENの「Invisible  Sensation」という曲がとても好きなのですが歌詞の

努力だけじゃ未来は保てない 目の前の希望を頼って拾って
重宝したら一歩先へ

ってとこを思い出しました
  *6.1.1
UNISON SQUARE GARDEN Invisible Sensation 歌詞 - 歌ネット