今朝の朝明(あさけ)秋風寒し遠つ人
雁が来鳴かむ時近みかも
(万葉/巻十七/3947/家持)
昨日紹介した歌は情報量が多くて、自分でもちょっと食傷気味です。そんなわけで今日は、出汁の利いたお吸い物みたいなあっさりした歌を持ってきました。
訳すなら「今朝の朝明(あさけ)秋風寒し遠つ人」今朝、朝日が昇る前の明るい時、秋風が寒かった「雁が来鳴かむ時近みかも」雁が来て鳴く季節が近いからかな、という感じでしょうか*1。訳さなかった「遠つ人」は「雁」を導く枕詞です。
具体的に「空」と言う単語が出てこないのに、空を見上げているような気にさせてくれるのが不思議でした。考えてみると、理由はふたつありそうです。
ひとつは、朝明(あさけ)*2と言う語彙。この言葉は、日が昇ってないけれど空は明るいときを指すそうです*3。秋風が寒い明朝の空はどんなだろうと、自然と空のことを考えてしまいます。
もうひとつは、たぶん下の句「雁が来鳴かむ時近みかも」のせい。雁が来て鳴く季節が近い、ということは、逆説的に今朝の空は静かで何もないことを示しているのではないでしょうか。
朝明と、雁の不在。このふたつが結果的に、なにもない早朝の空を描写していたんですね。