寝ぬ夜こそ数つもりぬれほととぎす
聞くほどもなきひと声により
小弁(後拾遺/夏/191)
今日は「21世紀東欧SF•ファンタスチカ傑作選 時間はだれも待ってくれない」高野史緒•編を読み始めた。とりあえず冒頭の二編を読んだところどちらもおもしろかった。
宇宙開拓が進むとともにキリスト教も布教が進み、人間も、個性豊かな宇宙民族も、果ては機械までが教皇候補となり、歴史ある建物で選挙が行われる一編目「ハーベムス・パーパム(新教皇万歳)」(ヘルムート・W・モンマース/識名章喜訳)の好きなシーンはここ。
ふたたびホログラム立方体(キューブ)が三つ、同時に画面にあらわれる。その3D画像にトップ候補者が紹介されるのだーー以前に撮影されたものが編集されている。顔の上には三つの立方体のすべてで数字がもの凄いスピードで回転しながら、その都度最新の数字を叩き出していく。
現代のキリスト教あるあるが、宇宙進出を果たしたあとの地球でも存分に発揮されていて、ロボットの人権問題や異種族が教皇になることの是非が問われるシーンなんかが本筋の見どころだと思うのだが、未来のガジェット描写がちょこちょこ気が利いていてそこも楽しかった。
得票の更新がすぐに反映されるホログラムは、最新という点で優れているけれど、常に変動する数字はなんだか見づらそうで笑ってしまった。
不安定に数字を表示するホログラムのことが、なんだか頭から離れなくて「数」という言葉の使われた和歌を調べていたら、冒頭歌を見つけた。
訳すなら「寝ぬ夜こそ数つもりぬれほととぎす」寝ない夜がどんどん増えていくよ、ほととぎすが「聞くほどもなきひと声により」聞いたって言えるくらいの声量もない鳴き声で鳴くから、という感じでしょうか*1。
ほととぎすでではないけど、けっこう心当たりのある感情が歌われてると思うんですよ。
だらだらと夜更かししていたはずが、せっかく起きていたんだからと、だんだんその夜のハードルが上がってしまうことってないです? 私はYouTubeをだらだら見てしまう夜に「この動画が最後でいいのか……?」みたいな気持ちになってだらだら見続けて、最終的に「キュウくらりん」か「トトトト・トムブラウン」を見て寝るときが何度かありました*2。
歌も背後にそういう「後に引けなさ」みたいな感情があって、ほととぎすがいい声で鳴くのを待ってしまったんだろうな、と思うとちょっと心強い気がしました。