泊瀬川白木綿花(しらゆうはな)に落ち激(たぎ)つ
瀬をさやけみと見に来し我を
(万葉/巻七/雑歌/河を詠む/1107)
「白木綿花」というモチーフのよさが炸裂している歌を見つけたので紹介したい。
「泊瀬川白木綿花(しらゆうはな)に落ち激(たぎ)つ」泊瀬川(の流れ)の白い木綿の花のように激しく注いでいる「瀬をさやけみと見に来し我を」瀬がすがすがしいので見に来たわたしだよ、という感じ*1。まず「白木綿花」と白く広がっているモチーフを無音の静止画で見せてくる。これをぼーっと見てると「落ち激つ」と激流の水飛沫の音と冷たさで、平手打ちでも食らったみたいに一気に目の前の景に引き戻される。
「さやけみ」の「み」は理由を表す表現で、詠者がある程度この景色を想像して期待していたことがわかる。でも想像と実際は情報の量が違う*2。この歌では「白木綿花」と「落ち激つ瀬」のギャップはそのまま、想像と実際の景の情報量のギャップでもあるように思わせてくれるところがたのしい。